弊社では、文化財修理における概念とは、1)「調査」2)「材料」3)「修理」4)「資料」の4つの事項がなくては成立しないと考えます。「調査」という土 台がなければ、適切な「材料」を選定することが困難になります。このことから、下記のようなピラミッド形式で修理を進めています。左に示すのが、所有者との修理 方針と確認事項等、右に示すのが実際の修理工程です。
①調査の工程では、文化財本体の形質、形態、材質の分析並びに写真撮影及び現状記録による初期資料作成を行います。文化財本体を取り巻く歴史的価値を鑑み、先の 使用や鑑賞に耐え永く後世に伝わるよう、またその文化財が一般鑑賞対象か、あるいは信仰対象かを十分に考察した上で表装裂、古色度合等の修理方針を決定します。
②材料においては、調査によって導き出された同等材質の材料を製作します。加えて、古糊、和紙、表装裂地、錺金具、桐箱といった修理材料の選択。いずれも上質な材料を吟味し揃えます。ここでは、文化財の形質を維持しながら、その視覚的イメージを損なわないよう十分な配慮が必要です。具体的な 例として、本紙修理に用いる紙や補絹、補修紙1 、裏打紙2においては、その構造のみならず色合いや強度が文化財全体とのバランスを崩さないものであるかがきわめて重要です。また表具裂においては、織物の種類・紋様・色合いがその文化財に最適なものであるか、美術的あるいは宗教的意味合いを考慮しながら十分に協議・検討されることが肝要です。
1…補修紙に使用する和紙は10〜30年以上寝かしつけたものを使用。
2…裏打ちに使う和紙は日本国内で製造された手漉き純生漉和紙(楮100%)を用い、これらの和紙は全て国産楮を原料とし、製造段階で苛性ソーダを一切使用せず、ソーダ灰を用い、また数年寝かしつけたものを使用しています。
③修理とは、①の調査によって、決定した②の材料を用いて、文化財本体をその時点で最も適切と考えられる方法で修理する工程です。修理に携わる技術者は、一定の修錬によって会得した技能を持ち、文化財そのものの製作技法や修理に用いる材 料の特性を熟知し、常に細心の注意を払いその技術を追求し探求する姿勢が求められます。
④資料とは、調査による初期資料作成を元に、修理上観察(過去の修理跡より情報を得ること)、およそ100年後の修理を想定し、後世に伝えるための資料作成を行うことで修理は完了します。