歴史的美術文化の中心都市、京都においてその伝統美術を支えるべく、表装技術「表具」を基に事業を興しました矢口浩悦庵も、この地で表具業を始めてはや85年を迎えることができました。
これもひとえに、ご愛顧くださる皆々様のお陰と感謝し心から厚く御礼申し上げます。
「表具」と申しますと、古くは日本への仏教伝来とともに、隋唐の経典や仏教絵画の装飾として始められ、時代と共に移り変わるそれらを飾る「場所」であるところの建築様式に適応しながら、茶道などの興隆に伴い、やがては一般絵画墨蹟の装飾へと展開し、今日みるような和紙と織物で独特の美の世界を作り上げる見事な京表具に発展してまいりました。
わたくしども矢口浩悦庵は、これまで多くの歴史的美術工芸品の修復を手掛けて参りました。1987年の秋には、京都 鹿苑寺「金閣」を燦然と輝く姿に再現することに成功いたしました。その後も、矢口浩悦庵工房におきましては、「紙料液による古書画等の修復方法並びにその装置」で特許を取得いたしております。この弊社が開発した特許は、現在は公開特許となっており「リーフキャステイング」としてその名が世界に知れ渡るまでになりました。平成9年に本社は伏見区から上京区に移転、修復業務を展開しながら、新たなる美術工芸品(仏画・屏風や書院襖絵)の制作を行っております。その中でも文化勲章受章である日本画家奥田元宋先生や文化功労者である日本画家岩澤重夫先生、そして元総理大臣であられる細川護熙先生など、素晴らしい方々ともたくさんのご縁を頂戴しました。また復元、複製制作事業では、(株)便利堂が数年の年月をかけ完成させた伊藤若冲筆動植綵絵、釈迦三尊像コロタイプ全33幅(大本山相国寺所蔵)に若冲が当時考案されたとされる産裂を復元し表装に仕立てることが叶いました。(※現在三の丸所蔵館に所蔵されている動植綵絵に使用されている表装裂は明治期に改装されたものであり、産裂ではありません。詳しくはこちら。)
弊社では、このような文化財複製品製作から美術館内を管理する文化財IPMサポート業務まで、幅広い分野でお客様のご要望に沿いながら新しい分野にも挑戦し、先人の知恵と技術が集約された京表具の伝統を守り伝えていければと存じます。さらにデジタル化が進む中、デジタル機器を活用した修復や技術の研究開発、それらを担う後継者の育成から職人の育成にも力を入れ取り組んでいく所存です。最後に、これからも人々の心を豊かにする作品や修理を社会の皆様にご提供できるよう社員一丸となって、益々精進し取り組んでまいる所存でございます。
何卒よろしくお願い申し上げます。
有限会社 矢口浩悦庵
代表取締役 矢口恵三