文化財修復・制作技術

文化財保存修復とは

 修復は、単に古いものを新しいものに作り変えるのではありません。わたくしたちは、美術品の劣化の現象を最小限に留め 制作された時代感を損なうことなく、鑑賞に耐えうる作品に蘇らせ、後世に伝えていくことが使命であると考えています。
 これらの修復は、先人より培われた伝統的な技法により受け継がれてきましたが、今日の高度な知識と技術のもとに、現代科学を利用した更なる技術の向上がなされていくものと確信しております。
 現在、修復作業は次の2つの大きな考え方を基本として行われています。

一つは現状を尊重すること。

 これは現状の姿をありのままの形で残しながら、傷みの原因を探り、その傷んだ箇所を修復し、傷みの進行を抑えることです。このため、さまざまな手法が用いられてきました。
 当社では襖絵の本紙(絵画・墨蹟等の描かれた紙・絹のこと)を例に挙げますと、本紙絵画面に大きく欠失した部分があった場合、欠失部の本紙の補填紙は、出来るだけ同素材を使用します。
 更に裏面から補強のための裏打ちを生漉和紙にて施します。無地の状態となった補填箇所には補彩を施しますが、この補彩も本紙全体のバランスを考慮しながら、色合いを合わせる程度で、加筆は(線や形の絵を描き加えること)行いません。
 作者の意図を汲み、あくまで現状を尊重します。(但し、その作品の時代感や状況によっては、施主との話し合いのもとに、専門家による加筆が行われることもあります。)

もう一つは将来の再修理をふまえて修理をすること。

 これは、古くから伝えられてきた名品の多くにおいて、数百年に一度といった修理が繰り返し行われてきた現実があります。
 修理の際、接着糊の濃度や素材の選定を誤ると、その時点では難なく修理が出来上がっているように見えても、実際に本紙はかなりの損傷を受けます。そして次回の修理時には経年による傷みも加わり、修理は困難を極めます。このことから将来の修復に備えて、その修復に用いる素材、紙や接着糊を吟味しながら慎重に行うものです。
 これらの基本となる方針を基に、作業は充分な調査分析の上に修理技法を検討し、慎重に進められます。